こんにちわ、ククルビジョン 宮平です。
この度、監督したシネマ組踊「孝行の巻」が第14回沖縄国際映画祭に特別招待が決まりました!
昨年3月終わりごろにお話をいただき、9月に撮影があり…今まであまり本作品について触れていなかったのは、とにかく完成まで気が抜けなかったこと、心の余裕が全くなかったこと!それが大きいです。
今、ようやく完成したことに大きな安堵を感じておりますが、これからが映画としては勝負でもありますので、少し「監督」のお話をいただいてから今までを振り返ってみたいと思います。
初めは、全力で逃げたい衝動にかられた(笑)
今でこそ、約300年の歴史ある伝統芸能組踊とこんなにも真っ正面から向き合う機会をいただけたことに、感謝の気持ちでいっぱいです。しかし、お話をいただいた当初は、 正直に言うと、全力で脱走したいぐらいに、私には責任が重すぎると感じたのも事実です。(焦)
もちろんプロデュース作映画「カタブイ-沖縄に生きる-」でダニエル・ロペス監督が宮城茂雄氏のインタビューをしており形のないものを受け継いでいくことの難しさ、素晴らしさに関して伺ってはいたものの、ダニエル氏にオファーが来るならともかく「なぜ私?」と頭が疑問符でいっぱいになりました。
どれぐらい無知だったのかというと玉城朝薫の「孝行の巻」といえば嘉手納町に実在する池ヤラムルチの大蛇伝説を元に描かれたものというのは沖縄ではとても有名なのですが、それを知らないほど疎かったのです。
大蛇がつないだ不思議なご縁
ただ、不思議なことにその数ヶ月前、相棒の神谷がテレビ番組の取材のため沖縄の伝説について色々調べており、ヤラムルチの伝説の紙芝居はもちろん、当時の王・義本王のお墓(諸説あり)もテレビで初公開として、撮影をさせていただいていました。
義本王はその昔、飢饉・台風などの天変地異に次々に襲われた責任を感じ自ら王を辞して国頭に移り住んだと伝えられている王様です。
思えば、豚コレラ、首里城火災、その上に新型コロナに襲われている沖縄・・・今の沖縄や世界が抱える災いにも通じます。なので大野プロデューサーから「孝行の巻」を映像化したい、そしてそれがヤラムルチの大蛇伝説のお話であると聞いた時、なんとも不思議な縁を感じました。
ただ、あまりにも無知すぎて、大野プロデューサーをはじめ、友人・知人の伝統芸能に携わる専門家のお友達や関係者を片っ端から捕まえて助けを請いたい衝動に駆られたのも事実です。
“組踊「孝行の巻」の魅力はこれ!」”という答えを聞き、「その通り」に作る方が、 仕事としては早いのではないかと甘い誘惑に駆られることも、しばしばでした。
組踊「孝行の巻」をみて 「私ははじめに何を感じるのか」
ただ、どんなに心強いスペシャリストがそばにいようと私自身が組踊「考行の巻」をみたときに、どう感じるか、を軽視するなら監督はしてはいけないと思い直しました。
玉城朝薫作の名作「孝行の巻」を伝統芸能舞台プロデューサーである大野さんが立方・地謡、指導の先生、舞台サイドの人間の人選を行い、映像スタッフは、撮影監督や照明などは全て横澤プロデューサーが調整していただいているなかです。
つまり脚本・キャスティング・演出の能力ではなく「何をどう撮るか、どうみせるか」というところが問われていました。
ですので、まずは、なるべく自力で、ひとりで組踊をみるようにつとめました。とはいってもコロナ禍もあり実演を見る機会は本当に限られていましたが。それは国立劇場おきなわ内にあるリファレンスルームの存在にとても助けられました。過去に上映された公演の収録映像を心ゆくまで視聴できるのです。
また、組踊が生まれた当時の琉球王国の様子、組踊の始祖・玉城朝薫について、自分なりに調べることもしました。映画の冒頭、組踊についての解説部分も、まずは自分で書いてみることにこだわりました。
もちろん、組踊を知らないスタッフも多かったので、大野プロデューサーとともに若手が演じた「孝行の巻」のDVDをスタッフ一同でみる機会ももうけられました。
そのとき、うまく言葉にできない部分もありましたが「孝行の巻」でとくに心ひかれる場面や、面白いと思うところなどを大野プロデューサーに話したところ、予想以上に盛り上がったのが嬉しかった!
「よっしゃ、自分の感覚を信じていいぞ」と、少しずつ、自分の感触をつかんでいくことができました。
映像化にあたって大切にしたこと、改めて驚いたこと
伝統芸能の組踊を「新しい切り口で」、というのが 本「シネマ組踊」のコンセプトと重々承知はしていたのですが、約300年の歴史ある伝統芸能を 40そこらの経験も少ない映画監督が 【自分なりの】【新しい切り口】を目指したところで その限界はしれている、と考え、一旦「新しい切り口」を「探すこと」はやめました。
その代わり、 この映画の観客を「組踊を初めて見る(私のような)人」と仮定して、 「では何を見たいか?」と考えた時、大切にしたいことが見えてきました。
・玉城朝薫が作り上げた組踊の舞台芸術としての美しさ
・「孝行の巻」独特の面白さ(想像)
その2点を大事にし、どちらかというと「しないこと」を決め、それ以外は撮影監督の 砂川 達則さんにほぼお任せしました。砂川さんはクレーンやドリーなどを駆使して優秀なカメラマンの皆さん特機・照明チームと連携をとって細やかに考えてくださいました。
一般的にいうと、大蛇のシーンが「孝行の巻」のみどころと言われています。現代でも火花がでる演出というのは舞台としてハードルが高いのに、昔はどのように表現していたのか?疑問がわいてきてさまざま文献を調べたりもしました(大蛇シーンそれ自体も今と昔では、色々変化しているようです。)
また、唱え(セリフ)には沖縄独特の対句表現の使用が多く、とてもリズミカルです。なんだか玉城朝薫自身が楽しんで書いてる姿が思い浮かぶような気さえしました。
ただ、文にして500以上の琉球古語(私達スタッフは文章に番号をつけて 判断していましたが・焦)を、組踊の立方さんは、 全員が、「全ての役のセリフを覚えないといけない」というのです。そんなこと可能なの?本当に同じ時代の人間?と、ただただゾクッとしませんか?
セリフが多い上に上演回数も少ない「孝行の巻」は、立方を探すのにとても苦労するそうです。
苦悩の編集作業
映像として編集する場合、引きの映像だけでは面白みに欠けてしまうこともありますから、やはりヨリの部分をどこにするか、というのはとても悩んだ部分です。そして、実際に編集してみると、(組踊の撮影ではルールになっているらしい)「全身を撮影する」と決めた気持ちがよくわかる。(笑)
立方さんの指の先、髪の毛の先まで心のゆきとどいた 佇まいがきれいで、どうしても中々「より」に行くタイミングを迷う。 全身をみせたくなるのです。
さまざまな理由があり、本当に編集は困難を極めました。
というのも、3カメで クレーンショットもありドリーショットもあり 膨大に・・・素敵な映像が・・・ありすぎて、迷いに迷いました。
そして、玉城朝薫なら組踊の始祖として「映像なら、ここをこうみせたいんじゃ〜!」ということがあったはずですが、やはりそこは300年後に生まれた人間として、想像するしかありません。
一番は やはり、沖縄が誇る歌舞劇である組踊の魅力を引き出せているのか?そこがとても怖かったです。
涙が出るほど嬉しかったこと
昨年12月某日、 「孝行の巻」の指導をつとめた眞境名正憲先生が仮編集段階の映像をみてくださいました。
その日は朝から気分が悪くなるぐらい緊張していました。
映像の上映が終わった時、拍手が聞こえました。
「組踊の素晴らしさが伝わる映像です」と先生が感動してくださったのです。
その夜はひとり、興奮して、涙するぐらい嬉しかったです…
本当にカットごとに葛藤しましたので・・・・(ダジャレではありません・・・)
組踊の魅力
今回、伝統芸能である組踊「孝行の巻」の撮影に携わり、改めて 琉球の文化の深いところにふれ、 まだまだ深い学びの序章にすぎないことを知りました。
今まで生きてきて、空手も琉舞も三線もしないウチナーグチも話せない、と自分は本当にウチナーンチュと名乗ってもいいのだろうか、と思うことの方が多かったのですが、今回の仕事で、琉球古語の響きを日本語の和訳より身近に感じたときに、また地謡の音色に酔いしれてる自分を自覚したときに、はっきりと、はじめて 自分のなかにウチナーンチュのDNAを感じました。
うまく言語化できませんが、もしかしたら、それこそが組踊の魔法なのかもしれません。お芝居の練習風景や、本番を撮影させていただいたとき 地謡の奏でる音色にふと 「仕事として、被写体として」の視点を忘れ 「ああ、なんて贅沢な音色だ」と浸る瞬間が多々ありました。
あらためて・・・監督としてでなく いち沖縄県民として、伝えたいことがあります。
一流の立方・地謡、舞台制作チームを集めてくださった大野プロデューサー
一流の技術チームをあつめていただいた横澤プロデューサー
撮影監督の砂川達則さん、カメラマンのみなさん クレーン・特機の鳥越さん照明の皆さん、録音の佐藤さん カラーコレクションを担当した小野さん、舞台のスタッフのみなさん 、、完成間際までヒヤヒヤすることもあったのですが、 お付き合いいただきありがとうございます。
そして今このときも静かに淡々と、伝統芸能を守り・継承する全ての人に、感謝したいです。
横澤さんと大野さん、この壮大なプロジェクトを 企画してくださったこと実現してくださったこと、若輩の宮平に託してくださったことに感謝申し上げます (私以上に怖かった時もあったと思います・焦)
そして、もちろん、映画は観客のものであると考えていますので、これからシネマ組踊「孝行の巻」をみていただいて 観客のみなさんがどう感じるかが、一番の正解だと思っています。
第14回沖縄国際映画祭に特別招待決定 2022年4月16日 15時15分@桜坂劇場
2022.4.12 宮平貴子
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